キケナの花 4 side悠

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キケナの花 4 side悠

「薫、俺のことはもう好きじゃないのか?」 「好きに決まってる」  薫は即座に答える。 「嘘だ。俺は見たぞ。お前が捺と楽しそうに話してたのを」  それを聞いた薫の顔色がさぁっと青ざめる。やっぱり俺に聞かれたくない内容だったのか。 「あれは……」  薫が説明しようとするのが、言い訳めいて聞こえて、俺は薫の口を手で塞ぐ。 「俺はっ、薫のことを愛してるのにっ……」  堪えきれなかった涙が零れ落ちる。  薫が口を押さえている俺の手を外そうとしているが、力を入れて外させない。こんなみっともない姿を本当は見せたくなかった。だけど…… パァーン!  暗かった部屋に急にあかりがつき、何かが弾けるような音がして、俺は慌てて薫を守るように覆い被さる。薫が捺のことが好きでも、やっぱり俺は薫のことが好きなんだとわかる。 「悠様、お誕生日おめでとう!」 「兄上、お誕生日おめでとうございます!」 「悠様、お誕生日おめでとうございます!」  そんなことを考えていた俺の耳に入ったのは、能天気で賑やかな声だった。  ドアは薫が入ってきた時から開けっ放しで、そこには暖、那、葉がいる。 「お兄様、お誕生日おめでとう!」  ひょこっとドアから顔を覗かせたのは、捺だった。  何が起こったのかと呆然としていると、薫が俺の腕を抜け出して、こちらを見つめる。 「悠、お誕生日おめでとう」  微笑む薫に、俺は勘違いしていたのではないかと、顔がさぁっと青ざめる。 「あれっ? お兄様、泣いてるの?」  捺に指摘されて慌てて目元を拭う。心配そうに見つめてくる四人にまだ状況が分からず、薫を見る。 「ちょっとこっちにきて」  手を引かれて、部屋の奥の、四人に声が届かない場所に連れて行かれる。 「僕は、捺ちゃんのことは好きだけど、恋愛的感情は持っていません」 「でも、薫が話してる時に……」 「あれは……」  薫が少し頬を赤らめる。 「捺ちゃんに悠のことが好きなのか聞かれて、答えてただけ」  ほっとして俺は床にへたり込む。 「なんだ……。俺はてっきりもう俺のことを好きじゃないのかと思って……。ごめん、薫」 「いいよ。こそこそ動き回ってた僕も怪しかっただろうし」  薫が、仕方がないなぁ、といったふうに苦笑いする。仲直りの握手だと言って差し伸べてくれた手を握る。 「さっ、戻ろ! 悠が主役なんだから!」  薫に手を引かれて、ズンズンと四人の元へ歩いていく。 「ごめん、みんなお待たせ」  薫に合わせて俺も謝る。 「ごめん、ちょっと勘違いしてた。それで今日はみんななんで……」  あっ! 今日は俺の誕生日じゃないか! さっきみんなに言われた言葉で思い出す。さっきの音はクラッカーの音か。  すると、みんな一斉に笑い始める。なんだろう?、と不思議そうにする俺に薫が笑いながら言う。 「みんなでね、絶対悠は自分の誕生日のこと忘れてるよねって話してたんだよ」 「そうなのか。ありがとう!」 「今日はもう遅いから寝るけど、朝になったらお祝いしようね!」  薫がするっと俺と手を繋ぎ、にっこりと笑う。  そして、みんながその言葉に頷き、おやすみ、と声を掛け合いながら部屋を出て行った。
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