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目を覚ますと、あの寒くて暗い部屋とは全く違う、暖かい部屋のベットの上にいた。ここはどこだろうと身を起こして辺りを見回していると、低い声が聞こえる。
「起きたか?」
驚いて声のする方向を見ると、身分の高そうな男性が何人かの従者を連れて部屋の入り口に立っている。僕は思わずその人に見惚れてしまった。なぜなら、その人の容姿がとても整っていたから。若葉のような翡翠色の瞳に、短く艶のある黒い髪、すっと通った鼻梁。背が高く、すらりとして筋肉がほどよくついた体。僕がこれまで出会った人の中で最も綺麗だと思う。僕はハッとして小さな声で答える。
「はい」
その声は久しぶりに出したせいか、思っていたよりも掠れて弱々しい。この人は誰なんだろう? と不思議に思っていると、僕の疑問が伝わったのか、彼は僕のベットの近くに寄ってくる。
「はじめまして、俺は人間国の第一王子の悠(はる)だ。君は獣人国からやってきたので間違い無いか?」
「はじめまして。薫(ゆき)と申します」
僕は答える。これが彼、悠との出会いだった。
僕の名前は薫。獣人国の王子だ。僕がどうして人間国にいるのかというと、その理由は十年前に遡る。
十年前、人間による不当な扱いに不満を募らせた獣人が人間に対して反乱を起こした。当時は今よりももっと獣人に対しての扱いが酷かったそうだ。僕はまだ五歳だったからあまり覚えていないけど、周りの人が慌ただしく動いていたことは覚えている。
最初は人間が有利だったが、次第に戦況は獣人国に有利になっていった。理由は獣人の方が団結力があり、力が強かったから。このままでは獣人に滅ぼされてしまうと考えた人間は、人間国と獣人国を作り、お互いに相手の国の王子を一人、自分の国の王宮においておくことを和平の条件として降伏した。
当時反乱軍のリーダーだった僕の父はこのまま戦争が続くよりは、と渋々この条件を呑んだ。十年間はお互いの国を整える期間を設けようということで、僕は一ヶ月前に実質人質としてこの国にやってきた。
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