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暗闇とは、光が無くて見えないところのこと。または、光のことを知らず、希望がない世界のことだと彼女が唱う。淡い白光の彼女は今日も、寂しい暗闇を歌で揺らす。
「ここで見えるのはセイだけだから。それならきっと、セイが希望なのかな」
「え? それって、どういうこと?」
「だってオレ、セイを見つけて嬉しかったよ。だからセイは、オレの希望なんだよ」
彼には「嬉しい」がよくわからない。そもそも希望とは何なのだろう。光があること、光によって生まれた心そのものだと彼女がささやく。セイ、いなくならいでね、と。
それなら彼にとっても、そこにいてほしい彼女こそが、唯一の希望であるのに。
「それだと、光が希望なのか、光で見えるようになったものが希望なのか、どっち?」
む、とどちらの声も詰まった。彼は暗闇で、彼女は光。彼女は彼を照らし出し、ここにいると気付かせてくれた。けれど彼女にすれば、彼という希望を暗闇に見つけた気持ち。
どうして彼女は光を持って、彼は暗闇に溶けているのか。
暗闇につながれ続ける彼が、大事に憶えてきた言葉の一つ。セイは「生」、シオンは「死」なのだという。時折、絶え間ない潮騒に紛れて、色とりどりの言の葉が流れ着くのだ。
「私の希望の光、って聴こえて来るよ? セイは寝てばかりだから、わからないんだよ」
「……なんだ。シオンもやっぱり外のこと、気になってるんじゃない」
彼女はよく、散らばる言伝を拾って唱う。暗闇をときめく星のお祭り。彼女が唱うと、波音がきらきら光の花になるのだ。いつだって大事なのは、歌に込める想いであるらしい。
「セイ、セイ。私の希望の光、可愛いお姫様、いつもそう流れてくるんだよ」
そう言いながら、彼女は姫で、彼は姫ではないと言う。だから彼らは、「彼」と「彼女」という別のものだと以前学んだ。彼らを表す「オレ」と「オマエ」も、違う波風で知った。
暗闇と光は、生と死は、隣にあっても良いものだろうか。彼と彼女は、いつまで一緒にいられるだろう。彼はたびたび、彼女が何処かにいってしまう、と不安になった。自由な彼女は何一つ鎖を持っていない。かすかな光を羽に仕立てて、闇を飛び交う歌をふりまく。
「ねぇ、セイ。セイのこと、愛しているよ。それだけじゃダメなの?」
閉じ込められるべきは、彼だけであること。気まぐれに闇に花咲くさざ波は、「シオン」の音色をもう奏でない。耳を必死に塞いでいても、セイ、と彼女が唱うたびにわかる。
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