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私が大人になって、家族が集まるのは年末年始だけになった。
年越しを過ぎた一月二日。母と兄はアウトレットの新年セールに出かけて家には私と父の二人きりになった。
「昼ごはん、作ろうか?」
何気なく尋ねると、ソファーで新聞を読んでいた父が「お願い」と返した。
一人暮らしのおかげでだいぶ料理のレパートリーは増えたが、私は台所下の収納から袋麺を取り出して、袋を破った。
目安表記より三十秒ほど早くコンロの火を止めて、丼に二人前のラーメンを注ぐ。
「出来たよ」
そう言ってテーブルに置くと、父は小さく「ラーメンか」とつぶやいた。
「好きでしょ?」
「まあな」
いただきます、と二人揃って手を合わせて麺を啜った。ずるずると麺を啜る音だけが私と父の部屋よりも広いリビングに響く。
「…硬過ぎた」
私は箸を止めた。いつも父が作ってくれていたラーメンより明らかに硬く感じた。
「これはこれで美味しい」
父は静かに麺をすする。
結局父はスープまで飲み干して、まるでご馳走を食べ終わったかのようにじっと手を合わせて「ごちそうさまでした」と言った。
「庭の雑草でも抜くか」
父は腰をパンパンと二度叩いて後ろに反った。それを見て私も歳をとったなと感じた。以前の、私の思い出に残る父はもっと若かった。父の老いを見て、年月を感じる。
「食器洗ったら私も手伝うよ」
「久しぶりの息抜きだろう。ゆっくりしてなさい」
そう言って父は玄関へ向かう。その背中が私が飛び乗っていた背中とは想像もつかないほど小さく丸まっていた。
持っていだ食器をシンクに置き、靴を履く父の後ろに駆け寄る。
「二人でしたら早いし。終わったらビールでもどう」
飲む素振りを見せると父は優しく笑った。
「そうだな。頼むとしようか」
よっこいしょと、父は外へ出て行った。
私は台所へ戻って二人分の丼と箸を洗った。
二人分なんて大したことない。これからは食べ終わったら洗おうと心に決めた。
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