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私が大学生になって、就活のために父の住んでいるマンションに泊まることが度々あった。
「飲み物飲んでいいー?」
聞きながら冷蔵庫の中を開けて私は固まった。
冷蔵庫の中に一つも飲みものが入っておらず、納豆とヨーグルトが随分優雅な暮らしをしていた。
隣を見るとお惣菜のパックやスーパーで買ったであろう弁当箱がたんまり詰まったゴミ袋がそのまま台所の前に置かれていた。
私たちがご飯と味噌汁、そして魚や肉、野菜を食べている時、父はこの部屋で一人弁当を食べていたかと思うと急に寂しくなった。
父の住む部屋は八畳ほどの1K。こんなに細長くはないが、私の部屋と同じくらいの広さだ。
戸建ての我が家は父が購入したのに、その家主は娘の私と同じ広さで生活している。
無償に申し訳なくなった。
社会人になり、仕事が忙しくなると私は家事を疎かにしていた。
食事は基本外食で済ませて洗濯物は溜まればする。食器が数日シンクに溜まったままでも気にしない、というより面倒に思えた。
ふと父の部屋が思い浮かんだ。そういえば、父の部屋は意外と綺麗だったなあ。
いや、物が少ないんだ。極端に。
一人暮らし、さらに自分の稼ぎで生活を始めて、戸建てのマイホームが夢のまた夢に思えた。父だっていまだにローンを返済中だ。
あの家を買った時、父はどういう思いで判子を押したのだろう。自分が殆ど住まないと知りながら、家族のために買う気持ちや責任ってどれほどのものだろう?
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