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ふと気になってまた奥の席に目をやると、あの人は笑顔で日本酒の杯を傾けていて、ちょっとイラッと来た。
何だよ、その顔。
本当はメチャクチャ人見知りなくせに。
つか、だったら別に俺と飯なんか行かなくたって、教授とか研究員の同僚とかと行けばいいだろ。
「えー、嘘、葛城さんて彼女居ないの!?地元に居るとかじゃなくて?」
女の院生がでかい声を出したのに釣られて皆がそっちに視線を向けると、奏人さんは場の空気を悪くしない程度の苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、今度飲み会しましょうよ。葛城さんに興味ある人、結構居ますよ」
「でもその人、誘っても来ないのよ。本当は居るんじゃないの?どっかに」
と酒飲みながら言うのは、あの人の行きたい店の情報源、佐藤さんだ。
一瞬そっちを向いた皆も自分たちの話題に戻って、またざわざわする会話の中で、あの人に関する話に聞き耳を立てていると
「なーるーせ!」
小山がでかい声で俺を呼んだ。
「なんだよ。いきなり」
「なんだよじゃねーよ。橋本さんが話しかけてるのにお前ガン無視してるからだろ」
「え?……ああ、ゴメン。なに?」
顔を向けると困ったように橋本は言う。
「あ……飲み物空いてたから、あたしも注文するから何か飲むかと思って」
「そっか。悪い。じゃあウーロン茶」
すいません、と橋本が店員に目を向けた途端に小山に睨まれて、俺は気まずく視線を逸らした。
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