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「だから、僕が頼んで付き合ってもらってるんだから、きみは出さなくていいって、いつも言ってるじゃないか」 「いや、それこそ、自分で稼いでるんだから自分の分は出せよって話じゃないすか」 「融通の利かない子だねえ」  笑った奏人さんの形の良い唇からまた白い息が漏れる。    俺は少しだけ口尖らせて言った。 「俺は奢られに行くんじゃなくて、奏人さんがひとりじゃ行き辛いっていうから付き合ってあげてるんです。対等に見てくれないんだったら、もう一緒に飯行ってあげないっすよ」  奏人さんは、ふっと息をついて肩を竦める。 「分かったよ。ありがとう。でも、それならそれで断る時にはちゃんと断ってくれよ。でないと気安く誘えない」 「分かってます」  奏人さんは、俺の所属する民俗学ゼミの教授がこの秋から呼び寄せた研究員で、年だって俺より十も上の31歳で、同年代の友達と違うのは百も承知だ。  それに、一緒に飯食って割り勘といっても、この人は食が細いから結果的に多く出してもらうことになってしまっているのだけれど、それでも、年下だからってまるきり世話になって当たり前って関係は嫌だ。  敬語は使っても、気持ち的にはなるたけ対等の関係でいたい。  と思うから、こういう話になるとつい意地を張ってしまうのだが、その後無言で隣を歩くこの人を見ると、それはそれで言い過ぎてしまったかと反省する。
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