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「……いや……確かに、俺よりよっぽどあいつの方が気が合いそうだしお似合いだから、あいつが付き合えばいいのにって思ったけど……だったら、俺に付き合えなんて言わないで、自分が最初っからアプローチでもなんでも」
「……好きな人の願いが叶って喜ぶ顔も見たいし、自分の好きな相手同士が結ばれて幸せになる姿が側で見られる。彼にとってはそれが一番良い結末だったんだろう」
子供に諭すような言い方だった。
そりゃ、俺はそんな回りくどい感情は分からないガキだけど。
「……でも、……そのために自分が好きな人諦めるなんて、なんか違うと思います」
ふ、と彼は笑う。
「そうだね。きみはそう言うだろう。僕はきみのそんなところが好きだけど」
「へっ?」
……その『好き』って、どういう『好き』だよ。
あれだけ一緒に飯行ってて嫌いってこともないだろうけど。
頭の中でぐるぐる考えていると、そんな俺にはまるで気づかない顔で奏人さんは続ける。
「けれども、人が相手を想うかたちには、いろいろなかたちがあるんだよ。分かりやすいものもあれば、他人が理解できないかたちもある」
それはそうだろうけど……。
俺の目線のあたりで揺れる黒髪と扇を伏せたような睫毛、微笑む赤い唇。
男が好きな女と居たらそうしたくなるように、ずっと見つめていたくなる。
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