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「けど、お好み焼き食べながらする話でもないしね。……だから、こうして家まで送ってもらえば、二人きりで話せるし、きみを3年生の二次会に行かせなくて済むというわけ」 「……え?」  さっきからの疑問と今の言葉を、頭の中で繋ぎ合わせて考える。 「……もしかして、あれって、酔ったふりだった?」  居酒屋でぶつかってきたやつ。  ふふ、と彼は笑う。 「悪いね。酔うこともあるけど、あの程度じゃ足がふらつくほどにはならない。……あの時は、きみが僕を心配して自分から二次会を断るように仕向けられたらそれで良かったんだけど。彼女は偶然とはいえ少し可哀想だったね。まあ、小山君が今頃、上手くフォローしてくれているだろう」  淡々と他人事のように話すと、開いた口が塞がらない俺に奏人さんは微笑みかけた。  その表情は、いつかのあの人の笑みのようにどこか透き通るようで、儚げにも見えた。 「ごめんよ。……僕も、万が一にもきみを誰にも取られたくなかったから。……嫌いになったかい?」  俺は、小さな子供みたいに首を横に振った。  この人が、好きだ。  多分俺は、この人が汚い手を使って他の奴を押しのけてでも俺を求めてくれればくれるだけ、胸がふるえるほど喜んで、この人にまた惹かれるんだろう。
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