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 ……おれの、好きな人は。  山奥の小さな社で満開の金木犀に囲まれていたあの人と、この人は違うかもしれない。  けど、重ねた唇からは一瞬、ほんの微かに青りんごの飴の匂いがした。  十数年も前に俺があげた飴玉を大事に持っていたあの人。  大人のくせに不安になると飴玉を口に放り込むこの人。  もしかしたら、自分で仕掛けたことでも思った通りになるかは分からなくて、俺に会うまでにどこかで口に入れてたのかも知れない。  そう思うと、体が勝手に動いた。  頼りないくらいすっぽりと腕に収まる感覚も、あの人とよく似ていた。 「……俺の、好きな人は」   抱きしめて、肩に顔を埋めて俺は言った。 「……ひとりは、もう会えないけれど、きっと一生変わらない。……会って触れ合える相手で好きなのはあんただけだ。それもきっと、変わらない」  腕の中の相手はぴくりとも動かず、返事もなく 「ごめん」 俺がまた謝ると 「そうだねえ。今のは謝るところだ」 溜息混じりに呟く。 「……ごめん」 「でもね」  俺の頭に手を回してそっと撫でながら、奏人さんは言う。 「……目の前の僕にも、もう会えないその人にも、きみは誠実を貫いた。それは妬ましいけれど、きみらしい」 「……怒ってる?」 「敬意を払いつつ怒ってるよ。……全く、せめてエアコンくらいつけさせてくれればいいのに、寒いったらない」
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