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「……いいから。ムカつくなら気に入らないって言えばいいし、ヤキモチ焼くなら焼いていいから、だから黙って怒るの止めねえ?」
数秒の間の後
「……怒ってるわけじゃない」
ぼそっと言う声がした。
「……あんたさぁ……」
「分かってるよ。きみが好きなのは、……触れられる相手では僕だけだと分かってるよ。それでも面白くなくて喋る気になれないっていうだけだよ」
「……それ、怒ってんじゃん」
「怒ってはいない。きみを責めようとは思わないから」
そりゃ俺だって、この人が俺の知らないところで楽しそうに誰かと話してたら――――しかもそれが、俺が知り合う前からの友達で、俺の知らないこの人を知ってるともなれば、多少の嫉妬はするかもしれないけども。
「……どうしたら安心できる?」
「別に、僕が心が狭いだけだから、放っておいてくれればいい」
「ンなわけにいかねーだろ……」
抱きしめた頭の、前髪を梳くように手で避けて額にキスした。
「あんたが好きだよ」
「分かってるよ」
瞼と、頬骨の上にキスして、顔傾けて唇を合わせると酒の匂いがした。
うちの親父の酒臭さは大嫌いだけど、この人のは誘われるような甘い匂いに感じる。
すん、と唇の匂いを嗅いで、軽く重ね合わせたまま俺は言った。
「……他の誰にもこんなことしねーから」
「したら許さないよ」
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