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「きみも来るんだろう?」
「行きますよ。飲まないけど」
彼は笑う。
この人はビールは飲まないけど日本酒は好きだという話だが、俺が飲まないのに気を遣ってか一緒に食事に行っても酒を頼むことはないので、実際どの程度飲むのかは知らない。
……と考えると、俺が知ってるのはこの人の生活のごく一部で、知らないことの方が多いのに改めて気づいて、さっきは甘かった胸の中が急にモヤッとしてくる。
「それじゃ、また連絡するよ」
「はい。んじゃ、行ってらっしゃい」
校舎の前で別れると、なんとなく溜息をついてしまうのは、別に話すのが疲れるってことじゃなく、むしろ……。
「鳴瀬。おはよー」
「ぅお!?」
いきなり隣から声を掛けられて飛び上がりそうになる。
一瞬、今の様子を友人達に見られていたのかと焦るが、そこに居たのは小山ひとりでほっとする。
「……おう。おはよ」
入学して間もない頃からの友人でゼミも同じ小山瑞樹は、白い息を吐いて手袋を嵌めた手を擦り合わせる。
「今日もさみーな。なあ、今度鍋とか食いに行かねえ?皆で」
「……いいけど」
「なにその、あんま気が進まない感じ」
家族で食べるならいいけど、あんまり友達同士でひとつのものを食べるのは好きじゃない。
定食みたいに自分の分がちゃんとまとまってるものがいい。
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