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「らしいよ。この前、鳴瀬のおばあちゃんち、っても、もう誰も住んでないんだけど、見に行って来たって言ってた」
「あの、去年裏山で土砂崩れがあったってところ?」
「うん。葛城さんも同じ出身だから、行ってみたかったとかで」
「ふうん……」
春の柔らかい風が吹いて、はらはらと花びらが散る下で見る彼女の顔は、冬の悩んでた頃より透明感があって、控えめな化粧も可愛くて――――つまり、どんな言葉も足りないくらいなんだけど。
桜色の艶めいた唇が動いて、言った。
「じゃあ、もともと縁があったのかな。鳴瀬君たち」
それを肯定していいものかどうか悩んだけど
「そうかもね」
彼女が言うならと否定せずに答えたのに、俺を見上げて笑う。
「やっぱり、まだ嫌なんだ。あの人」
「え?」
「あたしより、小山君の方がよっぽど悔しそう」
「バッ……ンなことないって。俺は別に」
「あ」
「え?」
前を見ていた彼女が声をあげ、そちらに顔を向けると意味が分かった。
彼女の恋敵だった男は、俺たちを認めるとにこりと柔和な笑みを浮かべる。
「こんにちは」
「こんにちは。葛城さん」
「……こんにちは」
意識してるわけじゃないけど、どうしてもまだ声が硬くなる。
「お散歩かい」
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