エピローグ・春 1

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「はい。まだ桜が残ってるから、ちょっと探してみようかって」  ショックな光景を見たはずなのに、女の子っていうのは切り替えが早いものなんだろうか。  何事もなかったみたいに、にこやかに彼女は話す。 「そうだね。僕もそう思って、今日は歩いて出勤してきたところ」 「そうなんですね。春でお天気もいいとちょっとした距離でも歩けちゃいますよね」 「本当だね」  この人のこういう微笑みが俺は怖い。  俺があの時、喧嘩売るように話しかけた時でさえ柔らかい表情を崩さず、そのくせ首元に刃を突き付けられるような威圧感を覚えた。  今はそんな裏は無さそうだけど、でもこれくらいの年齢の男だったら普通兄貴風吹かして、デートかなんて冷やかしてきそうなところがこの人には全く無い。  ただ、微笑ましそうに。  祝福するように。  そう。  鳴瀬に関わらない限りは。 「今年は卒論やいろいろ大変だろうけど、頑張って」 「ありがとうございます。葛城さんも」 「ありがとう。それじゃ、失礼」  すれ違うと、男のくせにふわりと花みたいな香りがした。  知ってる気がするけど、何の香りだろう……。 「あ、葛城さん」  彼女が声をあげた。 「肩に、花びらついてますよ」 「え?」 「これ……」  スーツの肩に伸ばそうとした彼女の手を先回りして、俺はそれを取って彼に見せた。
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