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「はい。これ」
「ああ。ありがとう」
手のひらに受け取ると、彼は眼を細めてそれを見る。
なんだか、大切な愛おしいものでも見るように。
一瞬その表情に目を奪われて、はっと我に返って俺は言った。
「それじゃ、失礼します」
「ああ。その先の公園にも咲いていたよ」
背を向けて歩き始めて、少ししてから彼女が言った。
「……葛城さんって」
「何?」
首を傾げた彼女の髪がさらりと揺れた。
「……不思議な人だよね」
「……うん」
彼女の言いたいのは、多分俺が感じるようなことだろうと思った。
けど――――。
「まあ、いいんじゃないの。鳴瀬も、変わったとこあるし」
あんまり深く考えないでおいた方がいい気がした。
「変わってる?」
「なんか……一人で居るのが好きっていうか、あんまり群れないっつか」
「……そうだね」
その言い方に、あいつのそういうところが好きだったんだろうと思えて
「あ、ほら。あれじゃない。さっき葛城さんが言ってたやつ」
公園のフェンスから張り出すように咲いた桜を指差した。
「ホントだ」
ふわりとピンクの花みたいに顔を綻ばせた彼女の手を握ると、はにかんだように笑って俺の手を握り返した。
「……ありがとう」
それはどういう意味のありがとうだったのか分からないけど、俺は何も言わずただ微笑み返して、手を握ったまま歩き出した。
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