エピローグ・春 1

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「はい。これ」 「ああ。ありがとう」  手のひらに受け取ると、彼は眼を細めてそれを見る。  なんだか、大切な愛おしいものでも見るように。  一瞬その表情に目を奪われて、はっと我に返って俺は言った。 「それじゃ、失礼します」 「ああ。その先の公園にも咲いていたよ」  背を向けて歩き始めて、少ししてから彼女が言った。 「……葛城さんって」 「何?」  首を傾げた彼女の髪がさらりと揺れた。 「……不思議な人だよね」 「……うん」  彼女の言いたいのは、多分俺が感じるようなことだろうと思った。  けど――――。 「まあ、いいんじゃないの。鳴瀬も、変わったとこあるし」  あんまり深く考えないでおいた方がいい気がした。 「変わってる?」 「なんか……一人で居るのが好きっていうか、あんまり群れないっつか」 「……そうだね」  その言い方に、あいつのそういうところが好きだったんだろうと思えて 「あ、ほら。あれじゃない。さっき葛城さんが言ってたやつ」 公園のフェンスから張り出すように咲いた桜を指差した。 「ホントだ」  ふわりとピンクの花みたいに顔を綻ばせた彼女の手を握ると、はにかんだように笑って俺の手を握り返した。 「……ありがとう」  それはどういう意味のありがとうだったのか分からないけど、俺は何も言わずただ微笑み返して、手を握ったまま歩き出した。
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