エピローグ・春 終

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「ん?」 「何でもない」  ノートパソコンの画面に彼は視線を向ける。  この人は、俺より大人だけど、そうじゃないところもある、というのはもう嫌になるほど知ってる。 「……でも、俺はこういうのも嬉しいけど。みんなが知らないところで、俺特別扱いしてもらってる、みたいな」  使い終わった懐紙を畳んでいると、奏人さんが手を出した。 「ありがと」  懐紙を捨てて、奏人さんは呟く。 「分かってるけどね。それも悪くないけれど。人が桜を愛でるのには誰もおかしな顔はしないだろうに、とね」 「……でも、奏人さんは独り占めしたい方だろ?」  むっ、とする恋人に俺は言った。 「また、休みの日にでも、どっか行こう。ただの散歩でもいいし、飯食いに行くんでもいいし」  バイト先の書店から、卒業したら社員にならないかと声を掛けてもらった。  ちゃんと就職して独り立ちできたら、この人と一緒に住んで、いつか同じ家から出かけてまた帰って来る、そういう生活が送れるようになりたいと考えているけど、まだ本人には伝えていない。  今言っても、ただの学生の浮かれた夢みたいに思われそうだから、もう少し説得力が出てきたら話そうと思っている。 「……んじゃ、次の授業あるから一回帰る。また来るよ。桜餅ごちそうさま」 「ああ」  ちらりと俺の方を見て画面に目を戻した奏人さんは、少し寂しそうに見えた。 「……あのさあ」 「ん?」  歩み寄って耳元に囁くと、奏人さんはくすぐったそうに笑って言った。 「知っているよ」 『きみの好きな人』了
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