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「ただいま」
夜10時。バイトを終えて家に帰ると、おかえりという母の声に混じって父の笑い声が聞こえた。
また飲んでるなと思いながら、顔を合わせることがないようにそっと廊下を歩いて行くとリビングから
「おう!匠海。勉強してっか!?」
鼓膜に痛いほどデカい声がした。
仕方なく、ドアを開けて一応顔を出すと
「匠海。お帰り」
父と向き合って酒を飲んでいた従兄の謙治が笑みを見せた。
「こんばんは」
「お前、高い学費払ってんだから、ちゃんといい仕事就けよ?あれか?教授か?それとも学校の先生にでもなるのか?」
父は完全に酔っ払っていた。
酔うと毎回飽きもせずにその話になる。
「匠海。いいから上行きな。酔っ払いはほっといていいから」
母が間に入るのも、いつものことだ。
俺は従兄にひとつ頭を下げて、その場を離れた。
うちは祖父と父と二代続く工務店だ。
今は家を買うならハウスメーカーの建売がほとんどで時代的には厳しいんだろうけど、下町では家のリフォームだったり二世帯住宅の注文だったり、馴染みの人の繋がりのおかげでそれなりに仕事があるらしく。
俺の名前も、男が生まれたという時点で将来を期待して父がつけたものだ。
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