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けれど、何の因果か、俺は5歳で決定的な出会いを経験してしまい、暇さえあれば本を読んだり調べものをしたりという子供になり、父が望む方向からは完全に外れ。
中3の時、工業高校に行けという父に土下座して、俺が跡を継ぐことは諦めてもらって今に至る。
そして、絶たれたと思った父の三代目の願いは、現在職人として一緒に働いている父方の従兄の謙治が継ぐ見込みになっており。
俺はその邪魔にならないよう早く家を出るためと、息子に勉強させるつもりなんて無かったのに学費を出してくれてる父にそれ以上の負担をかけないようにバイトで稼いでるわけだが――――。
「……疲れた……」
ベッドに寝転んで天井を見ると、明日話があると言った小山のことと、奏人さんのことを思い出した。
もし、俺がこのまま女に興味のない人生を送ったら。
ただでさえ代わりの居ない一人息子だというのに、家業を継がなかったことに加えて、もうひとつ親を失望させることになるんだろう。
それを考えると、ひどく申し訳ない気持ちにはなるけれど、……でも……そのために自分を誤魔化すのはやっぱり無理だ。
階下からは上機嫌で従兄と喋っている父の声がまだ聞こえていて、俺は溜息をついた。
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