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「まだ帰らないの?」
それが自分に向かって放たれた言葉であることを一拍遅れて把握したらしいXは、そちらに視線を向ける。そこに立っていたのは、やはりブレザーを纏って片手に鞄を提げた、ひょろりと背の高い男子生徒だった。眼鏡の下から、ぱっちりとした目がこちらを見下ろしている。
Xは返答の言葉に悩んだのか、しばしの沈黙の後に言う。
「そうですね。まだ、帰るには少し早いので……」
「なあにー? 随分他人行儀じゃない。クラスメイトなんだから、遠慮はなしなし」
ばんばんと背中を叩かれて、Xは一体どのような表情をしたのだろう。私には想像もつかない。けれど、どうやらXはこの男子生徒の「クラスメイト」ということになっている、らしい。Xは男子生徒を見上げて、ぽつりと言った。
「……わかった。それで、何か用かな?」
それが『異界』のルールだというなら基本的に逆らわない方がいい、というのがXのスタンスである。Xの先ほどより幾分砕けた返答に満足したのか、男子生徒はひときわ明るい声で言った。
「まだ帰らないんなら、ちょっと付き合ってくれない?」
「何に?」
「幽霊探し」
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