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かくして、今ディスプレイに映し出されているのは一人の少年だった。
特段何か特徴らしい特徴のない顔立ちに、片目が利かないゆえの少しだけ曖昧な視線。鏡に映し出されたこの『異界』におけるXは、Xの少年時代と思しき姿をしていた。こちら側の肉体と異なり、白髪の影もない黒々とした髪を撫ぜて、Xは身を翻す。本来あるべき右腕を欠いた袖が一拍遅れてついてくる。
男子トイレから出てきたXを迎えた男子生徒は、眼鏡の位置を直して言った。
「それじゃ、早速幽霊が出たってところに行ってみよう」
「待って。そもそも幽霊探しって何?」
Xが今にも駆けだしそうな男子生徒に声をかける。男子生徒は「あれ、言ってなかったっけ」とあっけらかんとした調子で言う。
「最近、幽霊が出たって騒ぎになってるでしょ。だから、ここらでいっちょ、こっちから幽霊を探してやろうと思ってさ」
最近、と言われてもここに来たばかりのXには当然わかるはずもない話だ。一体この男子生徒はXを誰と勘違いしているのだろうか。それとも、この男子生徒の発言もまた『異界』のルールの一つなのか。私にはわからないまま、話が進んでいく。
「幽霊が何者かわかってしまえば変にびくびくする必要もなくなるでしょ? そもそも、幽霊なんてばかばかしいってね」
「……まあ、言いたいことは、わからなくもないな」
ただ、数々の『異界』を見てきたXからしてみれば、「幽霊」と称されるようなものの存在を頭ごなしに否定することもできないのだろう、それ以上の言及はしなかった。男子生徒は曖昧なXの回答でも十分に満足であったようで、胸を張って言う。
「そんなわけで、幽霊の正体を見に行こう」
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