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「ああ。それで、幽霊が出るっていうのはどこなんだ?」
「定番も定番、音楽室さ」
言いながら、夕日の光が射しこんでくる廊下を二人で行く。時折、先生と思しきスーツ姿の人が通りがかり、挨拶を交わす。やはりXの存在は違和感なくこの『異界』に溶け込んでいるらしい。
階段を上っていき、最上階に位置する音楽室へ。向かっていくと、くぐもったピアノの音が聞こえてきて、どうやら音楽室に誰かがいるらしいことが窺えた。しかし、男子生徒がドアノブを回してみるが開かない。がちゃがちゃと乱暴な音が響くだけだ。
「内側から鍵をかけたのかな。すみません、開けてもらえますか」
Xが試しにドアを叩きながら声をかけてみるが、変わらずピアノの音が聞こえてくるだけで返事が無い。向こうからピアノの音が聞こえてくる以上、こちらの音が聞こえていないということもなさそうだが――。
すると、男子生徒が大げさに肩を竦めながら言った。
「いや、無駄無駄。ここ、外から鍵を使わないと閉まらないんだよ」
「とすると、どうしてピアノの音が聞こえるんだ?」
と言いかけて、Xは扉の方に視線を投げかけて、首を傾げる。
「……これが、幽霊の仕業?」
「そう、鍵のかかった部屋からピアノの音色が聞こえてくるって話」
まさしく今のこの状態ではないか。鍵のかかった部屋の内側に、何者かが存在していてピアノを弾いている。外からしか鍵がかからない以上、中には誰にもいるはずがないというのに。そう考えれば確かに不気味な話である、けれども。
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