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男子生徒は自分のポケットをまさぐると、その中から長い鍵を取り出す。
「そしてここに、職員室で預かってきた音楽室の鍵があります」
「あるなら早く出してくれないかな」
Xはきっと、相当じっとりとした視線を向けたに違いない。男子生徒は「ごめんごめん」と全く悪びれずに言って、鍵を差し込む。その時、ちょうどピアノを弾き終わったのか、音がぴたりと止んだ。
がちゃり。音を立てて音楽室の鍵が回される。そして、男子生徒がドアノブに手をかけて、勢いよく扉を開く。
そこに広がっていたのは広い部屋だった。楽器や机は端に寄せられていて、広くなった床を夕焼けの赤い光が埋め尽くしている。
そして、一際存在感を放つ黒々としたピアノの元には――誰も、いなかった。
男子生徒は怪訝な顔をして、ピアノの側に歩み寄る。だが、Xの視界で見る限り人の気配はどこにもない。もちろん、ピアノの蓋もしっかりと閉ざされていて、誰かが弾いていた形跡もない。
「幽霊の気配はない、んだけどなあ」
男子生徒が腰に手を当てて首を傾げるのをよそに、Xはおもむろに動き出す。あちこちに視線を向けて、やがてその視線が一点に向けられる。
「これかな」
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