過ぎ去った時間

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 Xが指さす先にあったものは、一抱えほどのサイズのCDラジカセだった。赤い光に照らされているそれに近寄って、観察する。 「電源、入ってる。多分、これが鳴ってたんじゃない?」 「え、そんなもん?」  男子生徒がXの手元を覗き込んでくる。Xはそれを横目に見ながら、CDラジカセのCD挿入部を開く。中に入っていたのはベートーヴェンのピアノソナタのCDだった。 「このCDを流したまま、教室を出て鍵を閉めれば、中からピアノの音が聞こえる」 「それはそうだけどさー、そんなに簡単なもんだったかー……」 「そういういたずら、じゃないかな。いたずらをする神経はわからないけど」  とにかく、これが幽霊の正体だ、とXは言う。男子生徒は「はー」と大げさに溜息をついて肩を落とすも、すぐに顔を上げてXの背中をばんばん叩く。 「いや、正直俺じゃわかんなかったわけだからな。ありがとう、これで大々的に幽霊なんていなかった、って言うことができる」  Xは男子生徒に向き直る。そして、首を傾げて問いかける。 「それは……、皆のため? それとも幽霊のため?」  男子生徒は眼鏡の下で目を見開いて、それから苦笑じみた表情を浮かべてみせる。 「どうしてわかったんだ? 俺が『幽霊のため』に幽霊探しをしてるって」 「さっき、『幽霊の気配はない』って言ったから。君には、見えてるのかなって」  ぽつり、ぽつりと。Xは言葉を落とす。男子生徒は「はは」と愉快そうに笑ってピアノに手をかけた。 「そっか。……そう、当の幽霊から頼まれたんだ。『幽霊騒ぎを収めてほしい』ってさ。自分たちは大人しくしてんのに、わざわざ騒がれて探されるのは迷惑だ、ってね」
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