過ぎ去った時間

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 その言葉をXはどのような思いで聞いているのだろう。私にはわからないけれど、男子生徒は、自分の淡い色の髪をぐしゃぐしゃとやる。 「いや、まさか、こんな話、信じてくれる奴がいるとはね」 「友達が。やっぱり、『見えるひと』だったからさ」  友達。Xの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。それが果たして本当のことなのか、それとも口から出まかせなのか――ただ、Xに限って後者は考えづらいとも思った。Xは嘘をつくことも、誤魔化すことも決して得意ではないから。  Xの友達。それは、今もなお友達であり続けているのだろうか。あり続けていたとしても二度と顔を合わせることはない、そんな相手について、つい、思いを馳せる。 「だから。きっと、そういう人もいるんだろうな、って思っただけだ」  そう言ったXは……、わずかに表情を緩めてみせたのではないだろうか。Xのことをよく知っているわけでもないけれど、男子生徒がにっと笑ったのを見ていると、何となくだが、そんな風に思えた。 「それだけでも、嬉しいよ」  男子生徒はそう言って、うん、と伸びをした。ただでさえ長い体が更に縦に伸びる。何とはなしに、猫のようだなと思う。 「よし、幽霊の正体も見たことだし、帰るかあ」  帰る。つまり、この男子生徒には帰る場所があるのだろう。この『異界』のどこかに。Xはそんな男子生徒を目を細めて見て、それから言った。 「鞄、教室に忘れてたから。……先に、帰っててくれないかな」
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