0人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉をXはどのような思いで聞いているのだろう。私にはわからないけれど、男子生徒は、自分の淡い色の髪をぐしゃぐしゃとやる。
「いや、まさか、こんな話、信じてくれる奴がいるとはね」
「友達が。やっぱり、『見えるひと』だったからさ」
友達。Xの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。それが果たして本当のことなのか、それとも口から出まかせなのか――ただ、Xに限って後者は考えづらいとも思った。Xは嘘をつくことも、誤魔化すことも決して得意ではないから。
Xの友達。それは、今もなお友達であり続けているのだろうか。あり続けていたとしても二度と顔を合わせることはない、そんな相手について、つい、思いを馳せる。
「だから。きっと、そういう人もいるんだろうな、って思っただけだ」
そう言ったXは……、わずかに表情を緩めてみせたのではないだろうか。Xのことをよく知っているわけでもないけれど、男子生徒がにっと笑ったのを見ていると、何となくだが、そんな風に思えた。
「それだけでも、嬉しいよ」
男子生徒はそう言って、うん、と伸びをした。ただでさえ長い体が更に縦に伸びる。何とはなしに、猫のようだなと思う。
「よし、幽霊の正体も見たことだし、帰るかあ」
帰る。つまり、この男子生徒には帰る場所があるのだろう。この『異界』のどこかに。Xはそんな男子生徒を目を細めて見て、それから言った。
「鞄、教室に忘れてたから。……先に、帰っててくれないかな」
最初のコメントを投稿しよう!