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5 . 卑怯よの先輩
清楚、知的、さわやか笑顔、知らぬ者なき、学校1(?)の美人。
が、それだけなら、「 ぼくらのアイドル 」には、なっていない。
ぼくらのアイドルになったのには、やはり、ドラマがあったのだ。
5月の生徒集会。
議題に、「 本校教職員の汚職事件 」なるものが。
教師が、副教材等を書店から定価より安く購入。
生徒には定価で販売、差額を着服との汚職疑惑。
後で知ったが、書店の息子からの「 内部告発 」だった。
県教委から、闘争つぶし・紛争処理で派遣された新校長。
上からの指示か、証人喚問も、交渉も、話し合いも、完全拒否。
例によって、かわりに、ソクラテスが登場、事情を説明。
「 新刊書籍には、再販売価格維持制度というものがある。(当時)
法的に、値引き販売が、禁止されているのだ。
それで、書店には、値引き分を図書券で寄付してもらっている。
教師は、その図書券で、授業研究用等の書籍を、購入している。
それによって、授業の質を高め、実質的に、生徒に還元している。
図書券をもらわない場合、単に、書店が、より儲けるだけだ。」
いつもの、見事なたとえ話も駆使しながら、実に、明快に説明。
生徒も、「まあそれならいいか」的な雰囲気になった。
が、その時、叫び声が。
「 Y先生( ソクラテス )卑怯よ!」
叫び声の方を振り返ると、仁王立ちの女生徒が。
ソクラテスを、じっと、にらみつけている。
怖かった。
めちゃくちゃ怖かった。
( 彼女の美しさが、逆に怖さを増幅 !?)
自己否定の先輩が、ワイヤレスマイクを持ち、彼女のもとに走った。
彼女の発言趣旨を、ぼく流に、まとめるとこうなる。
「 図書券は、金券ショップで、現金との交換が可能。
実質、現金を受け取ったのと、何ら変わりがない。
本当に、授業研究用の本を買ったとしても、問題がある。
図書券がなければ、それらの本は、給料で買ったはず。
使わずにすんだ金で、パチンコ・飲酒をすることも可能だ。
それは図書券を換金し、パチンコ・飲酒したのと同じこと。
副教材購入は、県教委でなく各校教師に、決定する権限がある。
その職務権限に絡み、業者から、金品を受けとったわけだ。
たとえ、それをどう使おうと、それは、汚職そのものだ。」
体育館が破裂しそうな、拍手・歓声が。
さすがのソクラテスも、完全に、沈黙。
もっとも、なんたって、ソクラテス。
詭弁を駆使し、反論することはできたはず。
彼女の強烈な正義感、ど迫力、(そして美しさ?)。
それが、ソクラテスをも、沈黙させたのではないか?
それ以来、ぼくらは、彼女を「 卑怯よの先輩 」と呼ぶことに。
当然、「 卑怯よ! 」は、ぼくらの、終わりなき流行語に。
ぼくは、卑怯よの先輩と、一度だけ話したことがある。
学校の食堂で、ナ、ナント、先輩が隣に座ってきたのだ。
他に空席が、全く、なかったからだが。
「 ごめんなさい、お醤油とってもらえますか ?」
清楚、知的、さわやか笑顔。
「 は、はい 」
ぼくは、思わず立ち上がり、すばやく、醤油をわたした。
この時、立つ必要は、全くなかったのだが。
「 ありがとう 」
話したのは、たったそれだけ。
だが、後で、居合わせた、友人達から、小突き回された。
「 しげし、卑怯よ!」
などと、言われて。
「 グフッ、うらやましがってやがる !」
ぼくは、ルンルン気分だった。
( 6.「 叫び声 」の先輩 に続く )
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