川縁のホタル

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 そこにいたのは一匹のホタルだった。黄色い光を灯しながら、祖父の遺体の周りを優雅に飛び回っている。それは暗闇を照らす、星のように神々しい輝きを放っていた。  魂が、触れ合っている。そして、祖父の魂がこのホタルに宿ろうとしている。直感的にそう感じた。僕はその神秘的な空間から、目を離せずにいた。  やがて、ホタルは祖父の元から離れ、僕の目の前で少しばかり静止した。 「また、遊びに来いよ。いつでも待っているから」  そんな祖父の声が遠くで聞こえた気がした。僕はまた知らぬ間に泣いていた。  ホタルが暗闇へ導かれるようにして消えていく。僕は縁側から祖父の魂の籠ったホタルを見送った。また来るよ、と心で唱えながら。  仏間に戻って電気を点けると、いきなり現実に引き戻されたような気がしてしまう。少しばかり、眠気に負けて夢を見ていたのかもしれない。おまけに蝋燭の火まで消えている。火の番を任されたというのに何とも頼りがいがない。僕は祖父に謝罪するため、優しく白布を取った。  面と向かって謝ろう、そう思いながら祖父を眺めると、先ほどまで厳しい表情を浮かべていた祖父が何だか少しだけ笑っているように見えた。ホタルを見せてくれた、あの日のように、ぎこちなく。 完
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