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仙台行きのやまびこ号に乗り込み、僕は車窓から流れていく景色ばかりを眺めた。宇都宮を越えたあたりから、建物の標高が低くなる。東京のように顎を天空へ向けても全体像を把握できないような建物は、そう多くない。
福島駅のホームに降り立ち、僕はバスに乗り換えて祖父の家へと向かった。人が少なからずいると涙は零れない。ただ、祖父の死を目の当たりにした瞬間、堰き止めていた何かが外れて、一気に涙の波が押し寄せてくるのだと思う。
祖父の家は幼い頃から何ひとつ変わらないままでそこに存在していた。上京してから二年。その間にこの敷居を跨いだことは一度もなかった。
ゆっくりと玄関を開け、「こんにちは」と他人行儀な挨拶をすると、顔を出したのは祖母だった。二年前はピンとしていた背筋が緩やかに曲がっている。小さくなった体を見て、僕は少しだけ悲しくなった。
「遠いところから、悪いねえ。旭ちゃん」
久しぶりに自分の名前を聞いた。仕事漬けの日々を送っていると名字で呼ばれることに慣れてしまう。その温かさをしばらく忘れていたようだった。
「そんなことないよ、婆ちゃん。元気そうでよかった」
痩せて、しなった弓のようになってしまった肩を撫でると、祖母は優しい微笑を僕に返してくれた。
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