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居間へ顔を出すと、父と母、そして高校生の弟以外にも何人かの親戚が集まっていた。そのほとんどが顔も見たことがない親戚である。僕は軽く挨拶をして、祖父が安置されている仏間へと向かった。
仏間へ足を踏み入れると、縁側へと繋がる襖が開け放たれていた。そこから夏の湿った風が抜けていく。それは仏間へと穏やかな風を流していた。
祖父は真っ白い布団の上で真っ白い布を掛けられたまま、眠っていた。僕はその前に置かれている祭壇で手を合わせ、一本の線香を上げた。
祖父の顔を見なければならない。だが、亡くなった祖父の顔を見た瞬間に死を現実のものとして受け入れてしまう気がした。それでも、見ない訳にはいかない。僕は少しばかり逡巡した後、大きく息を吸って、白布に手を掛けた。
祖父は、ただ眠っているように深く目を瞑っていた。口元に手を当てれば、寝息が感じられるような安らかな顔だった。眉間に刻まれた深い皺。浅黒く焼けた皮膚。二年前の正月に会った時と何も変わっていない仏頂面の祖父がそこにいた。
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