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本当に、死んでいるのだろうか。そんなことを思いながら、僕は祖父の口元に手をやった。しかし、呼吸を感じられる訳もない。その瞬間に僕の悲しみの箍は外れた。祖父と二人だけの空間で、込み上げてくる涙を抑えることもできずにただ立ち尽くしたまま、祖父の寝顔を見つめていた。僕の涙が祖父の頬に落ちる。その涙は祖父のほうれい線の上で行き場を失っていた。
赤い目を擦りながら居間へ戻ったのは、二十分ほど経った頃だった。顔を知らない親戚たちが帰り、残っていたのは僕の両親と父の兄夫婦だけだった。
「ちゃんと、お別れしてきたか?」
気丈に振る舞っている父から問いかけられ、僕は弱々しく頷いた。実際は思い出が蘇るばかりで、まだ現実を受け入れてはいなかった。さようならなんて言葉をかける気にもならなかった。
それから程なくして葬儀についての会議が始まり、僕は外へ出た。少しばかり、歩いてみよう。そう思い、僕は祖父が連れていってくれたホタルのいる川縁まで足を運んだ。
すると、そこには先客がいた。弟だった。
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