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「何してんだよ」
軽い感じで声を掛けると、弟は体をビクッと反応させて振り向いた。
「何だ、兄ちゃんか」
僕だと分かった瞬間に弟は川へと目線を移す。僕もその隣に座って、川を眺めた。
「思い出に浸ってんの?」
「まあ、そんな感じ。ここで爺ちゃんがホタルを見せてくれたこと思い出してさ」
弟も僕と同じく怖がりだった。泣いて眠れなく弟を、祖父はこの場所へと連れてきたそうだ。それから弟も恐怖を払拭したのだった。兄弟はよく似る。
「ご先祖様は、今日もここにいるのかな」
弟が息を吐くように呟いた。祖父はホタルがこの村の先祖の化身だと言った。だが、もう七月の半ばである。ホタルは多分飛ばないだろう。ご先祖様もきっと別の場所で眠っている。
「どうだろうな。爺ちゃんなら、その辺のことをよく知っていると思うけど」
僕が答えを濁したところで会話は途切れた。僕たちはただ、目の前の川の流れを見ながら、途方に暮れていた。
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