十.

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十.

「あぁもう、またフリーズか、こんな時に」 舌打ちをしてスマホを手に取り執筆アプリを開くが、これまで(つちか)ってきた文字書きのスキルが、瞬時に頭の中で計算を始める。 書ける、この話は今書ける、十万と想定して実際には十三万字前後、どれだけのキャラを出してどれだけのスケールで世界を区切って、どんな構成にしてどんな文体で書くべきか全部見える。 効率で言えばパソコンがベスト、だが使えない。 僕の場合スマホと手書きは入力速度がだいたい同じ。 だとすれば、この作品は、この鉛筆で真っ黒に汚れた「原作」から生み出されるべき小説は、手書きである方が相応(ふさわ)しいのでは無いか。 僕はプリンターの脇からA4のコピー用紙の束を取り机に置くと、猛烈な勢いでシャーペンを走らせ始めた。 何十枚もの紙があっという間に乱雑な文字列で埋め尽くされて積み上げられていく。
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