十一.

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十一.

始まりは、この物語全体を端的に象徴するような二千字程度のビッグ・インパクトから。 出来事を順に追っていくのでは退屈だ。 だけど伏線のつもりで、回りくどく外堀を埋めるように色々放り込みながら進め過ぎては、読み手がすぐに首を(かし)げて離れる。 主人公は絶対だ、曖昧(あいまい)にしてはいけない、別のキャラのエピソード中でも、常に読み手に意識されてなければならない。 今だいたい一万三千字ぐらいか。 自分が何文字を生み出しているのか、これから何文字を生み出すことになるのか、そんなのはもう感覚的に把握(はあく)できる。 でも重要なのはそんなスキルじゃない。 今、僕に必要なのは、本一冊、たった十三万字程度しか無い中で、どれだけ読み手の心を動かせるのか、どれだけ熱い魂を込められるのか、その「感動」なんだ。 くそ、手が痛い、震えてきた。 それでも必死に書き続けようと力を込め過ぎた古いシャーペンの本体が折れ、(わず)かに指先を切り血が伝ったが、僕は新しいシャーペンを取り、再び走らせる。 締め切ったカーテンの隙間(すきま)から流れ込む朝日にも構わず、僕は頭の中で無限に増殖していく雷星の物語を、物語として必要にして充分な事象のみで切り取り、文字列へと変換し紙上に構築し続けた。 まだだ、まだこんなもんじゃない、雷星の物語はもっと面白くなるんだ。 僕の全身全霊を、持てる全てを注ぎ込んで、お前を必ずあるべき姿に描いてみせる。 白紙の中に埋もれているお前を完全な姿で現出させてみせる。
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