十二.

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十二.

と、あれだけあった紙の束が最後の一枚となった。 「何か紙、くそ、チラシの裏でもいいのに探すと無いんだよな……」 描かねばならないイメージが気が()れて霧散(むさん)してしまうことに(あせ)りながら見回した室内の足元には、仕送りの段ボール箱が(たたず)んでいた。 迷うこと無く飛びついてひっくり返すと、乱雑に散らばった缶詰やら野菜やらの上で段ボールを素手で切り開き、シャーペンをマジックに持ち替え無地の裏面に続きを書き付ける。 が、 「全然足りない……たったの二千二百字……」 やむを得ず商品名の書かれた表面にも書き(つづ)るがやはり足りるはずも無い。 「だったら……やむを得ない……!」 立ち上がり机の上に置かれた紙束を床へと投げ、一緒に転がり落ちたスマホも捨て置き、机に直接書き殴り始めた。 中途半端に手書きと機械入力を混雑するとそれぞれの熱量や文体が噛み合わず一貫性が失われてしまう。 さらにあっという間に三千八百字で埋め尽くされてしまった机を離れると、僕は背後の壁へと駆け寄り本棚を引き離してその真っ白な壁の端から文字を書き刻み出した。
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