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五.
もやもやした気分を発散しようと、その後、サイトが主催しているミニコンテスト向けに六千字の短編を一本、二時間で書き下ろして公開した。
「極みの閃き」なる幻の名刀を復活させるため、その国随一の刀鍛冶が伝承を元に一振りの刀を完成させ、その国随一の剣士に試し切りを依頼するが、
「『極みの閃き』とは刀のみを指して言う言葉では無い、それを振るう者もまた極めし者であって初めて言えることなのだ。
この平和な国に、私も含めもはやそんな剣士は一人もいないし必要も無い。
それだけの腕があるなら刀などよりもっと人の役に立つ包丁でも打った方がいい」
と一蹴され、怒りに任せ持参したその刀で剣士に斬りかかるも一瞬でねじ伏せられ、
「これ程の達人でも極みの域にいないのなら、もはや『極みの閃き』など完成し得ぬ」
と刀鍛冶を引退し、そこから急に現代っぽくなって職業紹介所へと赴き、普通に就職して意外と出世してしまうという、リアルな描写を散りばめつつシュールな笑いも誘うヒューマンドラマだった。
いつも通りリアクションは悪くない。
読み返しても一つの難も無い、完璧な構造と流れの完璧な文字列だと思う。
だけど、なんだろう。
これには、自分の作品には、何か足りない、これではコンテストには通らない。
完璧なのに欠けている。
一体何が足りないのだろう。
この感覚は随分前から常にある。
だけどずっとわからない。
癖になっている眉間の皺を指先で伸ばしながら掲示板に戻ると、久し振りに美香津木エルさんからのレスが来ていた。
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