家族との思い出

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家族との思い出

 弘美ちゃんのアパートから朝帰りして、まっすぐ家に帰った。ちょうど姉ちゃんが、仕事に行くところだった。親父は、すでに仕事に行ってしまったようだった。 「ただいま…姉ちゃん仕事?」 「そうよ…瞬、昨日の夜、連絡したのよ…」 「すまん、急にオールになっちゃって…」 「あまり、無理しないでね…行ってきます…」 「ああ…いってらっしゃい…」  自分の部屋に入るとまた眠くなったので、そのままの格好で寝てしまった。そして、起きたら夕方になっていた。スマホを見ると姉ちゃんから連絡が入っていた。 『今晩は、すき焼きにするから、ご飯は食べないで待っててね』  あまり、お腹は空いていなかったので、居間のテレビをつけた。夕方のニュース番組をやっていて、ちょうど天気予報コーナーで、若い女の子が明日の天気を説明してた。仕事をしていた時は、天気は気になったが、もう仕事もしていないし、明日の天気予報なんて意味がないと思った。  その後、テレビを見てると交通事故や災害の犠牲者のニュースをやっていたが、前ほど同情する気持ちにならず、テレビの中の世界の事だと思った。  しばらくすると姉ちゃんが、スーパーの袋をふたつ下げて、仕事から帰ってきた。たぶん、すき焼きの材料をいろいろと奮発して、買ったのだろう。 「ただいま…お待たせ…」 「おかえり…」 「瞬、お腹空いたでしょ…すぐ作るから待っててね…」 「そんな、腹へってねぇよ…」 「あれ、瞬、すき焼き好きだったでしょ?」 「違うよ…好きだったの母ちゃんでしょ…」 「あれ、そうだっけ?」  姉ちゃんが、居間のテーブルの上にすき焼きの鍋をセットして、具材をいれてる時に親父が帰ってきた。 「ただいま…」 「おかえり、父さん…」 「おかえり…」 「おう、今日はすき焼きか?久しぶりだな…」 「お父さんと早く着替えてきて…」 「おう…」 「瞬、ちょっと手伝って…」 「何をする?」 「玉子を、冷蔵庫から出して小皿を並べて…」 「オッケー」  親父もラフな格好に着替えて来て、定位置の椅子に座った。そして、玉子を割って、箸でかき混ぜた。 「あっ、瞬、ビール飲むか?」 「ああ、いいよ…飲もう…」 「瞬、ほどほどにね…」  俺は冷蔵庫から、瓶ビールを2本出して、グラスを3個出し、栓抜きで蓋を開けた。そして、親父のグラスから先にビールをついだ。 「おっとと…はい、瞬…」 「うん…」  俺も親父からビールをついでもらった。そして、姉ちゃんのグラスにもついだ。 「瞬、乾杯!」 「はいよ…」 「お父さん、せっかちね…」 「瞬と久しぶりに飲めるんだから…」  今日の親父は、何か凄く嬉しそうだ。姉ちゃんも張り切って、すき焼きを作ってくれた。 「今日は、いいお肉買ったから、味わって食べてね…」 「姉ちゃん何か、いつものと肉のさしの入りが違うね…」 「母さんが、すき焼き大好きだったな…」 「ほら、すき焼きは、母ちゃんが好きだったでしょ…」 「母さんの子供の頃、すき焼きは贅沢品だったので、母さんの誕生日だけ大好きなすき焼きを食べられたらしい…」 「そうなんだ…」  それから、親子3人で、母さんの思い出話や他愛ない話をして、ビールを飲みながら、すき焼きをつついた。何か、幸せな気持ちになり、こんな時間が、ずっと続けばいいと思った。  親父は、久しぶりに飲みすぎて、酔っぱらってしまったらしく、早々と寝床に入ってしまった。 「お先に…」 「父さん、おやすみなさい…」 「親父、おやすみ…」  俺は、なぜだか全然酔わないので、その後も姉ちゃんと二人で、ビールを飲んだ。 「父さん、口に出さないけど…瞬の事、心配でしょうがないのよ…」 「姉ちゃん…親父の事、頼んだよ…」 「わかったわ…瞬、なるべく父さんのそばにいてあげてね…ううう…」 「ああ…」  姉ちゃんは、また思い出したように泣き出した。姉ちゃんも、ずいぶん心配してくれてるのだろう。俺は、とても申し訳ない気持ちで一杯になった。
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