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また無心に、感じるままに真っ白な紙の上に鉛筆が踊り出した。シャッシャッと耳に心地良い音が響いてくる。1匹1匹目の形も顔の雰囲気も違うから描いていて面白かった。描いている間子猫たちは大人しく僕の周りに寝そべったり毛繕いしていた。10枚はあっという間に描き終わった。子猫たち1匹1匹に見せるとどの子も嬉しそうに
「ありがとう」
と言って似顔絵を咥えて去っていった。なんだか凄く不思議な時間だったが、僕はたいして特別なこともない日に急に現れた、特別なことに変な気持ちに襲われた。
でも後味は悪くない。むしろ久々に自分の絵を認めてくれる人に出会ってじんわり温かい気持ちになった。今まで自分の絵を認めてくれる人など、どこにもおらず、世間の冷たい目に自分から立ち向かうこともなく、避けるばかりの人生だった。
だから、「描いて」と言われて描く絵がどれほど楽しいものか感じたことがなかったのだ。
「いい時間だったなぁ」
僕はゆり椅子を揺らしながらくっきりと見える月を見上げた。
「明日は晴れかな」
そう言ってそろそろ寝る準備をしようかと思った時、庭がまたにわかに騒がしくなってきた。
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