復讐は冷めてから

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 俺はあらためて女の顔を正面から睨んだ。  走っても乱れないようにキツくひっつめた髪にはそこかしこにみっともなく白髪が浮かび、化粧を直す暇さえ惜しんで口紅は真ん中だけ妙に色あせている。  上等な生地のスーツもこの時間にはこころなしかよれてぐったりして見える。  断言できる。  恨んでいる奴は俺だけではない。在職時にはよくこの女の悪口で盛り上がったものだ。  この女のせいで出世ができないと嘆いた隣の課長や、俺と同じくらい怒られ倒した先輩たちの顔、顔、顔が今も目に浮かぶ。  業界内でもこの女は蛇蝎のごとく嫌われていたんだ。いくら仕事が出来ても、人としてあれはないと言われているのを、知らぬは本人ばかりというわけ。 「この時を待ってたんだぜえ? 四年間、来る日も来る日も……な」  ああやっと報われる。すべての努力が実を結び、ついに俺はこの女に天の鉄槌を振り下ろすのだ。 「これがなんだか分かるか」 「USB」  簡潔に女は答えた。「報告は常に素早く手短に」が口癖だった女らしい受け答えだ。
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