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復讐は冷めてから
「ねえ、覚えてる? 俺のこと」
まあ忘れたとは言わせねえけどさ。
タイミング見計らって回転椅子をきしませた俺に、電気のスイッチに指を載せたままの女の目が、縦に大きく見開いた。
「えっ?」
「俺だよ、俺。まさか忘れたのか? 中島課長……いや、今はもう部長だったかな? 相変わらず覚えのめでてえことで」
厭味ったらしく呼んでやった昔の役職に、元クソ上司はようやく働きはじめた頭で何かを思いついた。
「いや覚えてるけど。っていうか、お母さんはっ? まさか白石君……」
「バーカ。俺が恨んでるのはお前であって、あの婆さんじゃねえんだよ。ちょっとオネンネして貰ってるだけだ。邪魔はされたくないもんで」
「あ、そう。ならいいんだ……っていうか何、あなた私のこと恨んでんの?」
かー。恨んでんの、ときましたか。人の人生メタメタにしておいてよくもまあ。
でもま、そんなもんかもな。
キャリアウーマンだかなんだか知らねえけど、他人を蹴散らし蹴落としてのし上がった女だ。
自分が苛め抜いて退職に追い込んだ部下の気持ちなんか一度も考えたこともねえんだろう。
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