母ちゃんのハナシ

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「ここまでが、母ちゃんとの出会い編だ。母さん、ビールもう一本持ってきてくれないか」 父ちゃんは居間に座ってテレビをみていたばあちゃんにそう呼び掛けた。 「はいはい。ったく、自分で取りに行きなさいよ。幾つになっても親に甘えるんだから」 ぶつぶつ言いながらも、ばあちゃんは冷蔵庫から取り出したキンキンに冷えてそうなビールを父ちゃんに渡した。 「…由美子さんの話かい?」 ばあちゃんはそう言って、オレと父ちゃんの間の少し後ろに座った。 72歳のばあちゃんは、その歳には見えないほど元気だ。 腰だって全然曲がっていないし、今も現役で田んぼを耕している。 ばあちゃんの顔は、女だけど少しキリッとしていて、父ちゃんとよく似ている。 「…やっと、タケシに話してあげようと思ったんだね」 ばあちゃんは、優しく言った。 「いやぁ、こいつがどうしても聞きたいって言うからさぁ…本当、困っちゃうよ」 「話してあげなさいよ。たった一人の母親なんだから。“由美子さん”の為にも」 「そうだなぁ…」 さっきまで陽気に語っていた父ちゃんだったが、ふいにその目に涙を浮かべた。 オレはこの時初めて、母ちゃんの名前を知った。
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