オレ

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田んぼだらけのこの田舎町で、オレは父ちゃんとばあちゃんと三人で暮らしている。 コンビニすら家から20分も歩かなければならないほど何もないこの町は、とても退屈だ。 でも、この町の空はすごく青くて綺麗だ。 夜は電灯の灯りも少ないから懐中電灯を持たないと歩けないほど真っ暗だが、その分星が空一面に広がって、それはすれは物凄く綺麗なんだ。 オレは、この町以外の場所で空を見たことがない。 だけどオレは、この町の空が好きだ。 「おい、父ちゃん」 暑い夏の夜。 縁側にあぐらをかき団扇で仰ぎなが缶ビールを飲む父ちゃんにオレは聞いた。 「なんだぁ?」 父ちゃんは呑気に返事をして、隣に腰掛けるオレを見た。 「なんでオレには母ちゃんがいねえんだ?オレの母ちゃん、どこにいる?」 オレは率直に聞いた。 「あぁ、母ちゃんな。死んだよ。お前が生まれるずっと前にな」 父ちゃんは、いつもと同じようにそう答えた。 いつものオレなら「そうか」と返してそれで終わりだったが、今日のオレは違った。 「違ぇだろ!オレが生まれる前に死んだっていうのは、ちょいと意味がわからねぇよ。なぁ父ちゃん、嘘なんだろ?それ」 「嘘じゃねぇよ。母ちゃんは死んだよ」 「いつ?」 「だから、お前が生まれる…」 「じゃあオレは誰から生まれてきたんだよ!」 今日のオレは、そう簡単に誤魔化されたりしない。 何が何でも、真実を知りたかった。 「お前は…俺が産んだんだ。痛かったなぁ、出産。なーんてな。はははっ」 父ちゃんはそう言って、またビールをぐいっと飲んだ。 「誤魔化さないでくれよ!どこにいんだよ、俺の母ちゃん!なんでオレには母ちゃんがいねぇんだ?ヤスオにもユウサクにも、丸井にもケンタにも、みんな母ちゃんがいる。なんでオレにはいねぇんだよ?」 「…」 少し感情的になってしまったオレに対し、父ちゃんはただ前を見つめていた。 「オレ、もう14歳だぜ!?子供じゃねぇんだ!チン毛だって、ちゃんと生えてきた!なぁ父ちゃん、本当のことを教えてくれよ!」 オレは父ちゃんに向かって必死に言った。 「そうか、お前ももう14か…早いなぁ。あんなに小さかったのになぁ」 「そうだよ、14だよ」 「…聞きたいか?母ちゃんのハナシ」 父ちゃんは視線を前からオレに移し、そう言った。 「…聞きてぇ」 オレは父ちゃんの目を真っ直ぐ見つめて言った。 細い目に、大きな鼻。そして濃い眉毛。 いかにも男!って感じの顔だな、とオレは父ちゃんの顔をこうして近くで見て改めて思った。 それに対してオレは、男らしくないクリクリした大きな目に、父ちゃんよりも小さくてスッとした鼻。 どちらかといえば、中性的な顔立ちをしている。 オレと父ちゃんは、全然似ていない。 やはりオレは、父ちゃんではなく母ちゃんに似ているのか…、でも母ちゃんの顔を見たことがないから分からない。 そんなことを考えていると、ますます母ちゃんのことを早く知りたくなった。 「教えてくれよ、父ちゃん。母ちゃんのハナシ!」 「…よし、分かった。よーく聞いとけ」 「…うん」 そうして、父ちゃんは話し始めた。
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