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ふわっと広がったそれは、甘くて、少しクセがある香りだった。
「良い匂い…」
オレは思わず呟いた。
「あぁ、この香りだ。由美子の匂いだ。懐かしいなぁ…」
父ちゃんはそう言って、その目に涙を浮かべた。
「由美子、なんの香水使ってるのか聞いてもいつも教えてくれなくて…。今、初めて知りました」
か弱い声で父ちゃんはばあちゃんにそう言った。
「…そう。良かったら、持って帰る?」
「いえ、大丈夫です。ここに置いといてください。お義母さんの言う通り、かぐとなんだか寂しくなっちまうんで」
「…そうやねんね」
おばさんの提案を、父ちゃんは断った。
父ちゃんもおばさんもこの香りをかぐと、母ちゃんを思い出して恋しくなったり寂しくなったりする。
けれどオレには母ちゃんの記憶がないから、そんな感情にはなれない。
だから少しだけ、二人が羨ましく思った。
だけど。
これが母ちゃんの香りかと考えると、少しだけ母ちゃんに近付けた気がした。
もう居ない母ちゃんに、1ミリだけでも会えたような気がしたのだ。
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