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ぼそぼそと話していると、私を連れてきたのとは別の人間がフードボウルを持って来てくれた。
「早速仲良くしてるのか。お利口さんだね」
私の頭をくすぐるように撫でて、人間は去って行った。
「やったー、ご飯だ!」
「駄目よ、あなたはさっき食べたでしょう。それはモカさんの分よ」
フードボウルに飛び掛かろうとしたコタローを、桜が目で制する。
「みんな、食べたんですか?」
「ええ。着いてすぐに。モカさんもお腹が減っているでしょう? 私達に遠慮する事はないから、たっぷり召し上がって」
桜に礼を言い、私はドライフードに口を近づけた。もう三日三晩も飲まず食わずで彷徨い歩き、口にしたのは水たまりや沢の水と落ちていた腐りかけのパンぐらいだったから、腹の中はすっからかんだった。
口に入れた瞬間、香しい肉の風味とともに添加物や油の入り混じったすえた匂いが鼻をつく。私が普段パパやママから貰っていたフードとはまるっきり別物の、プラスチックを思わせる嫌な匂い。でも飢えには逆らえず、私は無我夢中でドライフードをかき込んだ。
最後に水で流し込んで、ようやくほっと一息つく。
ここが一体どこなのかはわからないけれど、こうして食事まで提供してくれるのだから安心して良さそうだ。
「助かったわ。あとは家に早く帰してくれるといいのだけど」
「……帰る? 君、帰る場所があるの?」
何気なく口にした瞬間、コタローがぎょっと目を丸くした。
「え、ええ。たまたま出掛けた先でパパやママとはぐれちゃって。きっと今頃私を探してくれていると思うの」
「そうなんだ……」
コタローは残念そうに顔を曇らせる。桜もまた、ふっとため息を漏らしたように見えた。
「僕とモモは、捨てられたんだ。だから、帰る場所なんてないんだよ」
ココが口を尖らせ、拗ねたように言う。
「私も。ここに連れてきたのは飼い主自身だから、心変わりして迎えに来てくれる事なんてないでしょうね」
「俺なんかもう長い事野良犬だからな。今さら紐で繋がれて人間に飼われるなんて、まっぴらごめんだな」
私は言葉を失った。
とすると、彼らは野良犬や捨て犬の類という事か。
だとしたら私が連れて来られたこの場所は、一体何なのだろう。
漠然とした不安がこみ上げる私を嘲笑うように、部屋の隅で寝ていた雑種犬がふんと鼻を鳴らす音が聞こえた。
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