五日目の夜は夢箱の中で

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 ――異変が起こったのは、その夜の事だ。  暗闇の中、グゥゥゥンと振動のような機械音が空気を震わせた。それと同時に、どこか遠くの部屋に収められた犬達がワォンワォン、キャンキャンと一斉に騒ぎ始める。 「……何?」  すっかり眠り込んでいた私は、慌てて飛び起きた。コタローやココ、桜も弾かれたように顔を上げる。  グゥゥゥン……。  妙に不安をかき立てるような、重い音だった。そして―― 「やめろーっ! もう少しだけ時間をくれっ!」 「嫌だっ! 行きたくない!」 「まだ死にたくない! お願い! 誰か助けて!」  犬達の口から放たれる悲鳴に、ぎゅっと心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。  桜がもぞもぞと動いて、ココの側に寄り添った。ココはぺたりと耳を伏せ、小さく丸めた身体をガタガタと震わせていた。 「一体何が起こってるんだ。なんだっていうんだ一体……」  今までのような陽気さはすっかり消え失せ、うわ言のようにコタローは繰り返した。 「助けて―っ!」 「誰か、誰かーっ!」 「パパぁっ! ママぁっ!」 「まだ死にたくないよっ!」  ますます悲壮感を増す犬達の叫び声は、反比例するように少しずつ遠ざかっていく。  まるで何か恐ろしい化け物に連れ去られようとしているかのようだ。  恐怖に怯えながら身を寄せ合うようにして固まっていると――やがてガクンという大きな音とともに、静寂が戻った。 「今のは……」  私達は顔を見合わせた。  何事もなかったかのような静けさが、かえって不気味に思える。先ほどまで助けを求めていた彼らはどうなったんだろうか。脳裏に浮かぶ不吉な想像を振り払うように首を振る。  その時―― 「ドリームボックス、っていうんだ」  部屋の隅にいた雑種犬が、ぼそりと呟くように言った。
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