五日目の夜は夢箱の中で

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五日目の夜は夢箱の中で

 連れて行かれた先は、薄暗い部屋の中だった。  リノリウムっぽいテカテカした床を囲んだ無機質な金属の檻。その中には私と同じ、数匹の犬が収容されていた。 「こんにちは。はじめましてお姉さん。俺はコタローって言うんだ。よろしく」  無遠慮に近づいて来てクンクンと鼻をひくつかせる柴犬に、私は思わず顔を背けた。続いてまだ幼いトイプードルが寄ってくる。 「僕はココ。よろしくね」  右の後ろ脚を浮かしたまま三本足で歩く様子を見るに、どうやら脚が悪いらしい。 「はじめまして。桜といいます。どうぞよろしく」  年老いたコーギーは床の上に丸まったまま、恭しく頭を下げる。  もう一匹……部屋の奥にもさもさとだらしなく毛を伸ばした雑種らしき犬もいるが、顔を背けて寝そべったまま起き上がる気配はない。 「私はモカ。よろしく……っていうか、ここはどこなの?」  私の問いかけに、誰も答える者はいない。  飼い主とはぐれ、見知らぬ町をふらついていた私は、突然やって来たトラックに乗せられこの場所に運ばれてきた。私を拾った男の人はとっても優しそうな人で、おやつまでくれたからきっと悪い人じゃないんだと安心して身を任せたものの、こんな風に他の犬と同じ檻の中に入れられるとは思いもしなかった。てっきりパパやママのところへ連れ帰ってくれるものだとばかり思っていたのに。 「僕達もみんな、今日来たばかりだから……一体何がどうなってるのやら、さっぱり」  コタローが首を傾げる。  桜と名乗ったコーギーも、そのすぐ隣に座っている幼いトイプードルも、表情を見る限り同じらしい。 「僕はモモっていう妹も一緒だったんだけど、モモはどこか別の場所に連れて行かれちゃったんだ」 「じゃあ、他にも違う部屋があるのかしら?」  壁に遮られて見えないが、隣にも同じような部屋が幾つか続いているようだ。淀んだ空気の中には、数え切れない程無数の犬の匂いが立ち込めている。そのどこかに、モモもいるのだろうか。 「ううん。呼んでも反応しないから、きっともっと別な所にいるみたい」 「不思議ねぇ。兄妹なら一緒にいさせてくれてもいいのに」
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