暗闇の中で……

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…………… 「う…ん……えっ!?あれ?」 ゆうりは違和感に飛び起きた。 大きな目をぱちくりする。 寝ていたのだ。しかも上司の膝枕で。 「な?えっ?あれ?私??」 恥ずかしさにしどろもどろになった。 両手で顔を覆い、そして そろそろと手を下げる。 見ると外は眩しいほど明るい。 「朝……ですね」 「よく眠ってたな。すごい寝顔だったよ」 「!やだッ!」 「冗談。可愛い寝顔だったよ」 「……」 (課長ってこんな優しかったっけ?昨日の夜から別人みたい……ハッそれより資料!) ゆうりはキョロキョロと辺りを見渡した。 「資料なら探しておいた。ほら」 高木の手には昨日見つけられなかった資料が握られている。 「良かった…」 安堵の表情を浮かべるゆうりを尻目に、高木は立ち上がった。 「よしっ!じゃ、その資料持って!早く行くぞ」 「え?何処へ?」 「何処って、打ち合わせに決まってるだろ」 「も、もう?お風呂とか入ってないんですけど……」 「そんな暇あるか!」 「……」 「ほら早く行くぞ!」 「は、はい」 (やっぱりいつもの課長だ……昨日の事…夢だったのかなぁ…?) 記憶を辿ると、ゆうりは頬が熱くなるのを感じた。 (やだ。どうしたんだろ私……いけない。気合い入れなくちゃ) 二人はすっかり明るくなった書庫を後にした。 「課長!」 ゆうりの呼び掛けに、高木が振り返る。 「ありがとうございました!私、今日は…頑張れる気がします!」 (そうよ。頑張ったら、営業で成功したら…そしたら課長はきっと喜んでくれる!) ゆうりの屈託のない笑顔に、高木は迷宮にでも足を踏み入れた気がした。 もどかしさを抱え、困惑気味の苦笑いを浮かべる。 今日も新しい自分にアップデートされていく。 新しい朝を迎えた二人は、前を向き歩き始めた。         ーENDー
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