一角鯨使いのフミコ

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「オヤジィ、この辺でいいんじゃないか?」 「そうだな、じゃあ後は頼んだぞ、フミコ」  フミコがジェットボードのスターターロープを思い切り引っ張ると、エンジンはドッドッと音を立て舟床(ふなどこ)にこだました。  ジェットボードを両手で抱えて漁船から飛び降りると、ザブンという音とともに水珠(みずたま)がキラキラと宙を舞う。  すぐにボードデッキに飛び乗り、前かがみになって態勢を整えると、スクリューから噴き出す泡の勢いでジェットボードは滑るように海面を切り裂き、白い引き波を描き出した。  船から離れ、一人波打つ海原を滑走すると黒い魚影が見えてきた。この時間はエサを求めて魚の群れが水上に浮かんでくる時合(じあ)い。  ――フィー――  口に(くわ)えた共振笛(きょうしんてき)を吹くと、水面から六本のヒレが浮かび上がり、ジェットボードの左右に並んだ。  ――フィフィー――  フミコが合図をすると、その群れは編隊を組みながら一斉に魚影を囲い込む。  海豚(いるか)漁が始まった。  海豚たちは追い込まれた魚を口に咥えるとすぐに漁船に向かい、その魚を船上に向かって放り投げる。ビチビチと勢いよく跳ねる魚が舟床を覆っていく。 「大漁だ。もうこのくらいでいいぞ、フミコ」 「うんじゃあ、ちょっと海豚たちと遊んでいくよ」  フミコはボードを蛇行させながら水しぶきを上げると小さな虹がかかり、その輪を(くぐ)るように海豚たちが元気よく飛び跳ねる。
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