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仕事が終わって家に帰る。真っ暗な部屋に明かりをともす。夕飯は作りおきを暖めるだけだ。私は晩餐が暖まるまでの時間を使って部屋着に着替える。他のもろもろの用事をすませる。私は暖まったタッパーを机に運び、こじんまりとした食事を始める。飲み物は発泡酒だ。別にこの一杯のために生きている、といった感慨は得られないが、なんだか社会の一員みたいな感覚を求めて、缶のプルタブを起こす。
食後寝るまでの時間は自由時間だ。でも、することはいつも変わらない。私は百円ショップで買った。少しシャレた編みかご、自分ではそう思っている、を手前に引き出して、働き始めてからすぐに買ったヘッドフォンを取り出す。これもまた同じ頃に買ったスピーカにコードを差し込む。スピーカなのに、ヘッドフォンを使うのか、とも思うけれど、それを人に見せたことはない。自分の一人時間だけのある意味での贅沢な物の使い方ということかもしれない。そもそも、今どき有線ヘッドフォンなんて、とバカにされるかも、とふと思って、このことはやっぱり秘密にしておこう、と思った。
私が聞くのは昔から変わらないお気に入りのグループサウンドで、あまり新しい物は増やさない。もちろん魔が差してそういうこともたまにあるのだけど。だから、私は音楽にそこまで詳しくない。スピーカを人に見せると、音楽好きなんだね、とか言われてしまうこともあるのだけれど、実際には彼の機能をしっかり生かしていることもない。それで、私はいつも恐縮してしまう。私よりもきっとあなたの方が音楽を好きですよ、って。そう、私にとっていつもするこの音楽を聞く時間は通過儀礼というか、形だけで、音楽を楽しんでいる、というのとは違う気がする。でも、けれど、習慣をやめようって気にはなかなかならない。だらだら続けている。そこで、朝の思い付きを思い出す。自分も既に習慣から逃げ出さない、寂しさを感じてしまう何かになってしまっているかもしれない。私はヘッドフォンで音楽を聴きながら、部屋の床に横になる。床には起毛した絨毯があってやわらかい。でも、そこで私は手を伸ばして、フローリングに片手の肘から先をつけてみる。ひんやりして気持ちいい。
私は、私は今の毎日をどこまで続けていくのだろう。変わらない日々に、失くすと寂しい習慣と記憶を残しながら、それでも明日に何を求めていくんだろう。ヘッドフォンからお気に入りの曲の前奏が聞こえてきたので、考え事をやめた。
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