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その小さな破裂音は、星の爆発に比べれば蚤の咳よりも小さかったが、ヘルメットをかぶりかけたデイヴィッドのからだを強ばらせるには十分だった。
この国に住んでいる者なら、直接的に、あるいは間接的に耳馴染みのある音。
デイヴィッドは、ヘルメットをバイクの横に転がすように置くと、ふたたび丘の上へ走った。
さっきの場所で、ベテルギウスの灯火に照らされて、座っているウォルターから白く細く煙がたなびいているのが見えた。
硝煙だ。
そう思ったデイヴィッドの足が、力を失ってふらふらと止まった。切れた息の隙間から、震える声で言った。「……エヴァンス……さん?」
呼ばれたウォルターの手元が動き、煙草の仄かな赤い火が、蛍のようにすうっと宙を動いた。
煙草に混じって、かすかに火薬の臭いがした。
デイヴィッドはおそるおそる聞いた。「……今の音は?」
「リセット音だ」ウォルターは立ち上がって尻の土を払った。まだ戸惑った顔のデイヴィッドに向かって、穏やかに言った。「勝とうと焦って行き詰った。勘違いしてたな。負けない覚悟が必要だった」
何が起ころうとして、何が起きたかデイヴィッドにはうっすらわかったが、もちろん何も言わなかった。
ウォルターが白みかけた東の空を見てデイヴィッドに言った。「日の出だ。我らが太陽。私も、そろそろ帰るよ。下まで一緒に行こう」
丘をふたつの影が降りてゆく。
ベテルギウスの明かりが、その二人の背中を押す。
ニュートリノの幽霊がからだを突き抜け、重力波のさざなみが囁きかける。
……どうだ、華々しく散っただろう?最後はこうでなくちゃ。
お前たちはまだ、だろ。まだ、先へ行くんだろ。
お前たちの星を照らす火の玉は、まだ燃えてるんだろ。
なら、終わるには、まだ早いよな。
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