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突然、白くまばゆい光が夜の闇を切り拓き、夜空から星がひとつ、またひとつと光を失い、消えていった。
二人は、はっと空の一点を仰ぎ見た。
オリオン座の右肩の、赤く大きな星のあった場所に、その光の源はあった。
ベテルギウス。
ウォルターが、どんどん明るさを増していくその光を、茫然と見ながらつぶやいた。
「爆発、した」
デイヴィッドは、伝わってくるはずがない爆発の音や、ほんのりとした熱を感じた気がした。超新星のその強烈な輝きが、自分のからだを、ウォルターの顔を、丘を、眼下の街を、月よりも澄み切った青白い光で満たしていくのを見た。
やがて、アーク放電のランプのように輝きを増したベテルギウスに、デイヴィッドは手をかざし、うわ言のように、興奮が抑えきれないように、ずっと昔に母に教わったことを繰り返すように、ぽつり、ぽつりと言った。
「530年前に出発した光だ」
「138億光年の過去から始まった」
「その中にいる。僕は、確かにここにいる」
ウォルターは、その最後の言葉を静かに繰り返した。「ここにいる」
二人はその後、口を開かなかった。
ベテルギウスが最期に放った光に晒されて、二人が心に思い浮かべ、自分と話した中身は、だいぶ似ていて、少しだけ違っていた。宇宙と、それに連なる彼ら自身の過去についてがほとんどで、ついでにちょぴりだけ未来のことを考えた。
二人はそうやって、神々しく熾天使が燃えているのを見るように、その輝きを黙って見上げていた。
しばらくして、気が付けばベテルギウスは最初からだいぶ西へとその位置を変え、東の空は薄い白に変わり始めていた。
デイヴィッドがマスクの下で大きなくしゃみをした。それから、座りっぱなしで固まった体をほぐすように、よいしょ、と立ち上がった。
「……僕、そろそろ帰ります。今日も午後のシフトから仕事なんで。まだ、いますか?」
ウォルターは、膝を抱えたまま、デイヴィッドを見上げて言った。
「もうちょっとだけ、あれを見ていくよ」
「じゃあ、お先に。お会いできてよかったです、エヴァンスさん」
「こちらこそ」
二人は握手の代わりに拳を軽く合わせ、また空を仰いだウォルターを残してデイヴィッドは歩き出した。
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