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校舎を出ながら道なりに進む。
制服の下に、対刃仕様のベストに鬱陶しさを感じながら今日も混沌の街を歩く。
女子高生が一人歩けば、拉致誘拐が徘徊するようなこの街だ。
集団である事こそが力であり。個人でのお出かけなど以ての外。刃物に対抗するための装備。小銃に対抗するための装備。魔法に対抗するための装備。それ等は全て、身を守る術と同様に学校側から叩き込まれる。
だから通常、学生を狙う輩は少ない。だけどそれは団体でいる場合であり、個人ではどんな状況でも不利のだから。
徒党を組み、団体という武力で爪痕を残し続ける。
だからこそ、学生である事が安全性を高める。
自分に出来る事はそれを忠実に守り、争いに巻き込まれないように常に影を薄くし、何にも関わらない事だ。それ以外で、僕に出来る事があるのなら
ただ、許しを乞う為に歌を唄う事だろう。
隣の友人は、相変わらず変わらない。
「~」
呟くように、吐くように。
それは意味が途切れた歌。その曲調は、いつか空気中に霧散して、歌である意味でさえ無くしてしまうほどにか細い何か。鼻歌として続く其れは、古くから伝わる、異国で歌われていた許しを請う歌。そんな歌を鼻歌の乗せ、スマホで何かを探している隣人の返答を待つ。
確かこれだと、明確な画像を探している間の暇つぶしの中。
頭が解けるような歌を繰り返す。
「歌うの好きだよね、アオ。確か其れ、讃美歌?……だっけ?」
「鎮魂歌。たぶんだけど」
誰とも知れない誰かが常に死に続ける街、”ノア”
それが、この街の名前。
こちら側とあちら側の境界線に存在するこの街には、人知を超えた現象やそれを操る人々で溢れている。こちら側の有力者と、あちら側の有力者を巻き込んで、この町の混沌はどんどん膨らみ、膨張は止める事を知らない。
例えば。
自分自身が異端でいることを知っている自分は、それをよく理解しているが故にこの場所にいるように。異端であるからこそこの場所に住まう者は確かに居る。
「誰のだよ。ま、別に誰でもいいんだろうけどさ。そんな歌を唄うより、もっと君の趣味に則った方がいいのに。せっかくそんな奇麗な声をしてるんだからさ」
「アニソンとか?」
「最近はボサノバとかかな?スパニッシュ系とかも聞くけど。ま、どっちも同じ趣味の域は出ない事に変わりはないね」
それはお前の趣味だと、肩を叩く。
学校を出ると、木製の建物群が織りなす貧民街。そして、高い建物群が印象的な中央区画を隔てる境界線が、道のように連なっている。それ等は鉄格子などで区切られてはいなく、行き来する人間は多種多様だ。その癖、こちら側とあちら側の世界はまるで違い。そして、どの場所も似たような地獄である事だけは変わらない。
貧富の差は確かにあるが、舗装された小奇麗な道が安全であるという話は無い。
区切られた境に貧富の差があり。人は善良ではない。
「趣味の域を出ないのは、きっとそれだけではないだろうけど」
「……なにが?」
「俺らの会話だって、趣味の域を超えないだろうなって話」
例えば。
彼はそう続けようとして、その口を止める。
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